こんな方程式見たこともない。






ボクはテニスが好きだった。いや、過去形じゃなく現在進行形だけどさ。

ただ最近少し後悔していたりするんだ、この道を選んで。

少しだけ、後悔している。



ボクの家はなかなかの名家だ。どういう風に名家かというと、まぁ簡単に言ったら医者一家なんだけれど。

父は外科医、母は歯科医、姉は研修医。親戚にもたくさんの医者がいる。

もちろん医者じゃない人達だっているけれどそれでもなかなかの職についている。

ボクは不二家に産まれた待望の長男だったりするから家族からの(ていうか父親からの)期待はそりゃもう凄い。

でもボクは医者になる気は更々ないのだ。なぜならボクには医者よりも興味のあることがたくさんあるからだ。

テニスもその中の一つで、ボクは密かにテニスの強い中学を探し出していた。

どうせ私立に行かされるならテニスの強い学校がいい。

その事について父親と話した時は大変だった。

ボクが小6になったばかりの頃で、どこの中学校に進学するかと話をしていたときだ。

父親に有名私立を紹介されてボクは言った。


「ボクはテニスの強い所に行くつもりだし、医者になる気はないよ。」


殴られた。


さすがにあれには驚いたけどこのさい全部言ってしまえ!って思って言ってしまった。

「ボクは医者になる気はないよ。それにテニスとはずっと付き合っていきたいと思ってるんだ。

だから勉強しかできない学校には行きたくない。どうせ行くならテニスの強い学校に行くよ。」

父は激怒した。ボクが当然医者になるとでも思っていたからだろう。

ボクに裏切られてむかついたんだろうな。父は言った、

「今更なにをいってるんだ?周助は医者になるんだろう?」


なにを勝手に決めてやがる。思わず切れそうになったけれどそれは押さえてボクは父にある提案をした。

しぶしぶだけど母さんの説得もあり(母さんはボクの理解者だ)

なんとかそれがとおって 今、テニスで有名な青春学園に在学していたりする。


そしてその提案が今のボクを悩ませている元凶だったりするわけだ。


「…もうこんな時間…明日も朝練あるし寝なきゃなもう…。」

でもこの方程式が解けない。明日1時間目の数学で聞くかな、もう眠い。


ぼんやりとする頭の中でボクはそう考えていた。

最近のボクの頭はぼんやりとしすぎだ。

理由はテストが近いから。テストでは誰にも負けるわけにはいかない。

誰にも負けない為には遅くまで勉強しなくちゃいけない。

そんな日々が続いている。


ここでもう、父とボクとの約束が何なのか気づいた人がいるかと思うけれど、その通り。

テニスで有名な学校にはいるかわりに、成績では学年トップをとり続けること。

それが約束だ。医者になるかどうかは卒業したあとまた話すことにしたんだ。
(まぁ3年たった今でもボクは医者になる気はないが)


でも今回は、テニスの大会とテストの日程がかなり近い。

よってテスト前の部活休みはない。

イコール 勉強する時間が全くない。

かなりピンチだ。

もう逃げ出してしまいたいね。
 
 ボクは何とも沈んだ気分でベットに倒れた。