たあいのないきっかけで、よく自分が嫌いになることってあるんだ。

ボクは今、その状態だった。



落ち込むボク。と、落ち込む彼。



昨日、父親と喧嘩した。将来の事とか色々押し付けられてボクがキレた。

父さんもキレた。それで落ち込んだ。

朝から元気のないボクを皆心配してくれていた。

そして、彼も。



「今日、家に行っても良いか」

はっきりとした口調で答える彼は、ボクと付き合ってる人だった。

実は、ボクは男の人と付き合っていたりする。

これはボクの頭を悩ませている事の一つだ。

いや、彼の事は好きなんだけど。でも、やっぱり時々本当にこれで良かったのかと思う。

家族に知られたらどうなるのか。

想像するだけでも恐ろしい。

ボクの父も母や姉も、ボクを軽蔑すると思う。

裕太とも、せっかく昔のように話せるようになってきたのに、この事を知ったら…。





怖い、だから時々後悔してる。



「不二。」

彼が、手塚がもう一度ボクを呼んだ。

ボクは少し顔を上げて微笑んで

「ごめん、テスト近いから勉強したいんだ」

と言うと

「それでも良い」

間髪入れずに言われてしまった。

それでも良いって、ボクは良くないんだけれど…。

そう思いつつも手塚の瞳を見ると何もいえなくなってしまう。

手塚の、まっすぐな瞳に、ボクはとても弱かった。



結局、ボク達はボクの家に向かって歩いてた。

いつもなら、ボクの方から話しかけているのだけれども、今日はそういう気分になれなくて、

ボクから手塚に話しかけることは無かった。

手塚もボクに話かけないから、辺りの雑音がいつもより耳にはいっていた気がする。

いつも、通るたびに綺麗だと思う花壇はモノクローンに見え、ボクの心の状態が自分でもはっきりとわかった。

何か一つ落ち込むことがあると、とことん落ち込んでしまう。

ボクの悪い癖だ。

普段あまり落ち込む事がないだけに、一度落ち込むと、なかなか立ち直れない。

そんな自分がむかつく、とまた落ち込む。

この悪循環から一生抜け出せない、そんな想いが頭の中に駆けめぐっていた。





「…なんか飲む?」

たった数分声を出していないだけだったのに数時間ぶりに声を出した、という錯覚があった。

それほどまでに手塚といる時間が長いと感じていたのだろうか。

そんなに、苦痛だったんだろうか。

あぁ、本当に何もかもがイヤだ。こんな事を思っている自分がイヤだ。

手塚に、申し訳ない。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。



すると、

「お前が落ち込んでると俺も悲しくなる」

ポツリ、と手塚の囁きが聞こえた。

「俺はあまり喋らないから、何も言えないけれど、お前のそばにいたいと思う。」

さらに手塚は続けた。

「お前が何で悩んでるのか、大体想像はつく。…俺のこと避けてる気がするし。

それでも、俺はお前の事が好きだから、ここにいさせてくれ。」



恐る恐る、手塚の顔を見てみると、そこにはボクが弱い手塚の瞳があった。

でもそれはいつもの手塚の瞳じゃなく、少し泣き出しそうなそんな瞳だった。



こんな手塚見るの初めてで、偽物なんじゃないかと疑った。

手塚の偽物なんて考えられないのに、そんな想像をした自分に少し笑った。

すると、今までピンと張っていたその場の空気が和らいで、手塚のホッとした吐息も耳に入った。



たったそれだけの事で心の穴が修復されたような気分になって、

一瞬のうちに今までの悩みが消えてしまったように感じられた。



手塚にゆっくりと抱きつくと、手塚お気に入りの制汗剤の匂いがして、

本物なんだとボクは認識した。
・・・そして、手塚も強くボクを抱きしめてくれた









この後の展開は皆勝手に想像して欲しいナ。