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だって、好きなんだもん。



ボクは猫が好き。

猫もボクが好き。(多分)

だけど僕らには障害がある。

嗚呼、なんて悲しき現実。





今日からボクたち、青学テニス部は恒例合宿だ。

いつもよりキツイ練習を乗り越えて、カレーを食べて、皆で騒ぎしながらお風呂入って

そして手塚に怒られる。

そんな予定通りに今日は終わりかけ、明日のために早く寝ろ!枕投げは一切禁止だ!

なんて手塚の怒鳴り声が英二達に飛んだ後、事件は起きた。





「し〜!大人しくしてろって!」

「?なんだぁどーした、えちぜ・・・」

ほあらぁ〜

桃の声を遮って聞こえてきた声はもちろん人間の声ではなく・・・。

でもだからって言ってすぐに何とは解らないような声だったんだけど。

まぁ、その声は越前の愛猫・カルピンの鳴き声だった。

「あぁ?!お前、何狸連れてきてんだよ!」

「狸じゃないっすよ!それに連れてきたんじゃなくてついてきてたんす!」

なんて一応コショコショ話で二人は会話してたんだけど、

もちろんこの部屋にいたレギュラー皆はカルピンの存在に気づいているわけで。

皆一斉に2人(+1匹)の所に寄っていった。

・・・もちろんボクも。

「うっわ〜、これがオチビの猫?かっわい〜じゃぁ〜ん。」

英二の声に海堂も頷いていてそしてボクも頷いていた。

「越前・・・。お前何をしているんだ・・・。」

なんて哀愁的に話す手塚に

「す、すみません・・・。」

いつもは生意気なルーキーが少しションボリして謝っていた。

「まぁまぁ。手塚。良いじゃないか。越前も連れて来たわけじゃないみたいだし。」

って、優しく話すのは大石だ。

「・・・別に怒っているわけではない。だがな・・・。」

と、手塚の目線がボクに向いていることに気づいた。

そしたら三年レギュラーも「あぁ・・・。」って顔をして僕を見ていた。

何のことだか解っていない越前は「どうかしたんすか。」なんて問いかけてきたんだけど。

ボクはその質問には答えないで「カルピン抱っこして良い?」と返した。

「良いっすけど・・・。」

ボクが越前からカルピンを受けとると英二が

「・・・ふじぃ・・・」

と言ってきた。

「・・・少しだけだから、ねっ!大丈夫大丈夫。」

「本当かよぅ。」

英二の言葉にボクは飛びっきりの笑顔を見せた。

対照的に英二はしかめっ面をしていたけども。

ボクはそれに気づかない振りをしてカルピンを抱き上げた。





カルピンは、凄く毛がフワフワしてて柔らかくてそりゃもう!可愛かった。

「うわぁ〜、可愛いねぇ。」

なんて越前に言うと越前も嬉しいらしく「まぁ。」なんてちょっと恥ずかしそうに言っていた。

ボクがカルピンに頬擦りしたり撫でていたらカルピンがボクの頬っぺたを舐めてくれた。

「ふふ、こしょばいや・・・。」

「・・・カルピンが初対面の人にそんなに懐くの初めて見たっすよ。」

なんて越前が言うから僕は嬉しくて嬉しくて!

さらにカルピンを強く抱きしめて頬ずりして。

なんか周りの呆れた視線が痛かったけどカルピンの為なら我慢できる!

とはボクの心の声であるわけで。

悲しきかな、体はもう限界だと訴えていたんだ・・・。

ボクは鼻のムズムズ感を感じて仕方がなく口に手を当てた。

「うっ・・・」

「・・・?」

「ふぇっ、」

「?」

「はっ・・・!」

「は?」

「ぶえくょい!」

「親父くさっ!」

ボクの可愛らしいクシャミを親父くさいと言いくさった越前をしかりたかったけども今のボクにはそんな余裕はなく。

ノドから何かこみ上げてくる物を感じたボクはむせる事しかできなかった。

「うっ、げっほ、げっほげっほ!」

「え、だ、大丈夫すか不二先輩?!」

心配している越前を歪んだ世界で見ながら。

ボクは自分に与えられた試練(と、ボクは思っている)を心底恨んだのであった!


嗚呼、ボクはカルピンが好きなのに。

カルピンもボクを好きみたいなのに。

僕の体はカルピンを拒絶する。



「はーい、時間切れ!」

と言って英二がボクからカルピンを取り上げた。

「不二、大丈夫?ほら、ティッシュ、ティッシュ。鼻水。チーン。」

優しいタカさんがボクの鼻にティッシュをあてがってくれたのでボクは鼻に力を入れた。

「あ、ありがひょ、タカさん・・・。けほ、げほ!」

なんてボクが涙声で言うと頭に軽い衝撃が走った。

「・・・調子になるからだ、阿呆。」

どうやら手塚がボクの頭を小突いたらしい。

「別に調子に乗ったわけじゃないよ・・・。」

へくし!

くしゃみをしながらいうこの言葉はなんと説得力のない言葉か・・・!

ボクは理解をしたのだった。


こんなボクらのやり取りをみて、越前達は気づいたらしい・・・。

「・・・不二先輩、猫アレルギーなんすか!?」

桃の心底驚いた声を聞きながらボクは大石が用意してくれた水を一口飲んだ。

「・・・そうとも言うね。」

「そうとしか言わん。」

手塚のキツイ突っ込みを受けながらもボクは答えた。

「猫は凄い好きなんだけどさ、近くにいるとクシャミとかセキとか出ちゃうんだよね、残念なことに。」

「不二の気持ちは解るけどさぁ、不二喘息持ってんだからやばいしょ、こんなことしたら〜」

いつもはボクが英二が説教するのに今回は逆に説教されてしまった。

う〜ん、たまにはこんなのも良いかも?

なんて言ってる場合がないほどクシャミが出る出る!

「う〜、、、けほっ・・・」

「不二、大丈夫?」

と言いながらまるで菩薩様のようなタカさんがまたボクの鼻にティッシュをあてがってくれた。

そうしてボクは、やっと反省を始めたのだった。





「とりあえず猫は隔離だ。」

手塚の言葉が無常にも部屋に響く。

「知らない人ばかりの部屋でもカルピン大丈夫かなぁ?」

と 英二の心配そうな声に越前が

「こいつ一人で気ままにしてるんでどこでも大丈夫っすよ。でも知らない人に構われたらムカついてひっかくと思いますけど。」

と反応した。

そしてカルピンは隣の部屋に連れて行かれてしまった。



ごめんよカルピンご主人と離れ離れにして。

ボクも悲しいよ。きっとカルピンも悲しんでくれてるよね。

こんなボクらはなんだかロミオとジュリエットみたいだね。

なんてバカな事を考えながらボク涙を流していた。





「不二先輩、そんなにショックなんすか・・・?」

 海堂がボクの涙に驚いたのか瞳を覗き込んできた。

「や、これもアレルギーだから平気。」

まぁ、少なからず心の涙も入っているはずだけど。

「・・・あの、すいませんなんか・・・、俺のせいで。」

と越前がボクに謝罪してきた。

ボクがこうなったのは自分のせいないなのに越前は自分が悪いと思っているのが解った。

「越前のせいじゃないよ。」

と、ボクはまるで猫を撫でるかように越前の頭を撫でた。

少し顔を赤くしている姿がなんだかとても可愛らしい。

「そうだぞ、越前のせいじゃない。こいつが悪い。」

と、手塚がボクの頭をまた小突いて、せっかくボクと越前が良い雰囲気だっていうのに邪魔をされてしまった。

まぁ、彼なりのヤキモチと心配なんだろうさ。




以前、手塚と二人で下校中に猫に出会ったことがある。

当然の如くボクは猫を抱き上げた。

手塚もその時はボクが猫アレルギーなんて知らなかったので微笑ましくその光景をみていた事だろう。

だけど。調子にのってキスとかしていたらやっぱりアレルギーが出た。

しかもその時は体調があまり優れなかったので、喘息まで出てしまって手塚はとても驚いてしまったそうだ。

そんな事があってもボクの猫好きが変わらない事にとても呆れていることだと思う。



でもさ、だって、好きなんだから仕方がないじゃない?

ボクは好きなものを我慢する気はないのさ。

だから君とも一緒にいるんだよ、ね、手塚。

頭の中でそんな事を考えながら手塚を見たらクシュンと一つクシャミがでた。




知り合いの話です。
猫が大好きなのに猫アレルギーのために飼えないそうで。
それでも猫が大好きだから猫を見つけては手なずけてます。
そしてクシャミをしています。

   
だって、好きなんだもん.