〜 dead end 〜


 恐いと評判のホラービデオを借りたのはちょっとした偶然と好奇心からだった。
 友人が観終わったのを、ちょうどその場にいあわせた不二に回してきたのだ。
 こういうジャンルはあまり好んで観たりはしないが、ふと、手塚はどうかな?
 と思ったら口が勝手に「借りるよ」と動いていた。
 というわけで、手塚を家に呼び出し鑑賞会を提案。明日は学校も休みだし泊まりの許可も得た。
 「それにしても珍しいな」
 ホラーは夜に観るのがセオリーでしょう!と主張して暗くなるまで待った不二の部屋。
 ビデオをセットしているとそう声をかけられた。
 「そうかな?」
 そうなんでもないように返事はしたけれど内心バレたかな、とドキッとした。
 もしかしたら手塚が怖がる姿というものが見れるかな〜、と思って誘ったことは内緒だ。
 電気を消すと、テレビの明かりだけがぼうっと部屋を照らしだした。
 二人並んで床に座り、無言で観始める。
 最初からなんだかおどろおどろしい雰囲気で始まったビデオは、
 最初の30分くらいで何人も無惨に殺されていった。
 呪いの権化のような化け物に襲われて、逃げても助かる確率は皆無だ。
 確かに前評判も高かった作品だけに、良くできているようで。
 (……怖い)
 ちらっと隣を覗きみると、それでも手塚は平然と画面を見つめている。
 (なーんだ。やっぱり駄目か)
 手塚の鉄面皮をどうにか崩せないかな、と企んだのは無駄に終わったようだ。
 それどころか、
 「不二、どうした?」
 ずるずると壁に背をつけるくらい下がっていった不二に手塚が気づき、問いかけてくる。
 まさか、ビデオ鑑賞を持ちかけた自分が怖くなった、なんて言えなくてぶるぶると首を振った。
 この位置がちょうどいいんだ」
 背中を何かにつけていないと後ろから化け物に襲われそう、なんて。
 馬鹿げているように思えても、そうしな  いと本当に怖いのだ。
 ビデオの中では未だに次々に登場人物がスプラッターな状況で殺されていて、断末魔がこだましている。
 誘った手前途中で止めるわけにもいかず、目を瞑っても悲鳴が聞こえれば気になるしで、
 早く終わらないかなとばかり考えていると。
 主人公が逃げ込んだ部屋の中、後ろの壁からすり抜け出てきた、青白い手。
 それに捕まれそうになったのを 見て、うわっとでかかった声を喉の奥でかみころした。
 思わず左右をキョロキョロと確認してしまう。
 (……う〜)
 たとえ後ろが壁だろうが幽霊や化け物には関係ない。それを嬉しくはないが改めて認識させられる。
 こうなったら背に腹は変えられない。
 下がってきた時と同じようにずりずりと手塚の側に寄り、ぴとりとくっついた。
 「不二?」
 いきなり服の腕あたりを掴まれて、手塚が怪訝な顔をする。
 「どうした?やっぱり怖いのか?」
 口にだして「うん」というのは恥ずかしいし、悔しいし。
 不承不承という感じでこくんと頷くと手塚が微かに笑った気がした。
 腕を掴んだままの手を、なだめるようにぽんぽんと軽く叩かれて外された。
 そのまま立ち上がった手塚を見上げると「どこいくの?」と口がついてでてしまった。
 「どこにもいかないが」
 そんな返答をされても安心できずに上目でじっと見てしまう。
 「そんな顔するな」
 困ったように手塚がベッドにかかっていた毛布をはずし、ばさっと不二に投げ掛ける。
 「手塚?」
 「それでも被ってろ」
 元の位置に戻った手塚が座りなおすのを眺めて、不二は言われた通り頭から毛布を被った。
 ビデオは目を離していた間に佳境に入っていて、恐怖も最高潮という感じだ。
 怖いものみたさで毛布の隙間から覗くと、ビデオの中の化け物とばっちりと目が合った……ような気がした。
 (やっぱり気休めにもならない!)
 我慢の限界という感じですくっと立ち上り、手塚の足の間に座り込むと、毛布で二人をぐるぐると包み込んだ まるで二人羽織状態。
 「おい、不二。なんだこの体勢は」
 「うるさい」
 後ろを振り向いて、きっと睨み付けると、ぼそっと「まったく……」と呟くのが耳に入ってきた。
 でもこればかりは仕方がなくて。背中を手塚にもたれかかるように密着してようやく安堵の息を吐く。
 「……手塚、これ面白い?」
 なんで怖くないの?そういう意味を込めて尋ねると、予想外の返事が返ってきた。
 「面白いぞ。不二の反応のほうが」
 「……何それ!?」
 じゃあ、始まってからずっと手塚はビデオではなく自分の反応を見て楽しんでいたのか。
 不二も最初は、手塚の怖がる姿を見たくてこれを計画したわけだけど。
 「手塚、悪趣味!」
 「お互い様だろ」
 切りかえされた台詞に、やっぱりばれていたのかと、不二はうっと言葉に詰まる。
 「それにな、後から襲ってくるのが化け物だけだと思うなよ?」
 「え?」
 振り向くとにやっと笑われた。意地の悪そうな、自分だけにたまに見せる表情。
 不穏な雰囲気を感じ取って、そーっと身体を離し始めると肩越しに両腕を回されて
 がっしりとホールドされてしまった。
 「て、手塚?」
 焦ってジタバタと逃れようとすると、「冗談だ」と後頭部に口づけられた。
 (冗談、ね)
 ホッとしたような、少し残念なような複雑な気分。
 再び無言でビデオを見始めた手塚に背後からぎゅっと抱きしめられていると、
 怖かったのも忘れがちになってしまいそうだが――。
 「ねえ、手塚。今日一緒に寝てくれる?」
 とても一人では眠れそうにない。
 こつんと頭を手塚の胸に預けると、ぴくっと反応したのがわかった。
 「……お前はことごとく人の忍耐を無にしてくれるな」
 低い声。地雷を踏んだことに気づいてももうすでに時遅し、という感じだ。
 「あ、やっぱり今のなし。化け物より手塚のほうが怖そうだし」
 「今さらだな」
 二人を包んでいた毛布をはがされて、床に押し倒された。
 薄暗がりの中、端正な顔が近づいてくるのがわかってぎゅっと目を瞑る。
 「覚悟しておけ」
 耳元でそう囁かれて、ゾクッと身を震わせた。陥落するしかない状況。
 薄く目を開けて見上げたテレビの中では追い詰められた主人公の恐怖に引きつった顔。
 諦めたほうがいいんじゃない?きっと楽になれるよ。
 優しいキスを待ちながら心の中で呟く。

 ――エンドロールまであと…何分?


                                         Fin

 一之瀬うたさまに。
 絶対不二はホラー物に強い気がするんだけど、そこのところにはあえて目を瞑ってください(笑)
 しかも飲み会後に電車の中で携帯に打って創った話なのでめちゃくちゃです。
 駄目ですか?駄目ですよね。ははは。



しきす様から小説を奪いました!
わー、感激v だめなわけがありませんv!
はぁはぁ!て、づかのおおかみめ・・・!

本当に本当にありがとうございました!
しきす様の素敵サイトにはリンクから飛べますv

小鳥由加子