倦怠期?


「……一応、僕らって、付き合い始めて、まだそんなに経ってない、よねぇ?」
 と、僕――不二周助は、誰に尋ねるでもなく独り言を呟いてみた。

 まだ僕らは俗にいう蜜月という時期なのではと思うのだけど、なんというか雰囲気的にまったりとしている気がするわけだ。
 付き合いは確かに短くは、ない。出会ってから最低二年は経っている。僕が手塚国光という存在を知ったのなんてそれより前だし。
それ故に、そーいう意味で付き合い始めたのは最近だとしてもその前に友人時代があるのだ。
今更新婚気分でもないのは仕方ない、といってはそうなのだけど。
 熟年夫婦(この表現微妙)のようなまったり感は、決して悪くはない。けど、もう少しどーにかなんないかなと、思わなくもない。
 何せ、友人期間を経てお付き合いをしていて、僕らより長いこと付き合っているにもかかわらず未だ新婚ホヤホヤのようなのが側にいるだけに、そう思ってしまうのだ。
 かといって、ああなりたいと思うかは別としても、ちょっとだけ。



「……………不二。前にも言ったと思うが、話があるなら口で言え」
 僕らは生徒会室で差し向かいでお昼ご飯を食べていた。
 それで僕は、スプーンをくわえたまま手塚の方をじーっと見ていたら、既にお弁当を食べ終えた手塚がいつものごとく眉間に皺を寄せて、ため息とともに僕に言った。
「………うえ?」
 まぁいつものごとく、僕にはソコまで手塚を凝視している自覚はなく、食べ掛けのそぼろごはんもまだ半分程度で止まっていたのにも気付いてなかったわけだ。
僕がこういうふうに固まっている時はほぼ九割以上の確率で手塚に物申したいことがあるときなので、手塚としてはため息の一つもつきたくなるのかもしれない。
 ボケッとしている僕に、手塚が呆れたように手を伸ばしながら言う事はなんというか保護者じみたというかお父さん…否、お母さん的な台詞。
「しかも、ボロボロこぼして……付いてるぞ?」
「……えっウソっ」
「ホントだ」
 口の端に米粒をつけていたというマヌケな姿でじっと凝視していた事実に焦りつつ、手塚の手がその米粒をつまんで自分の口に入れるのを見てさらに固まったりもする。
 うぎゃーと心の中で絶叫するのだけども、傍目に漂うのはなんというかほのぼのとした雰囲気なので、僕としては、何か違うと思うわけだ。
「…………………………」
 再びフリーズしたというか物言いたげに見上げる僕に手塚はガックリと肩を落としてもう一度、ため息混じりに僕を呼ぶ。
「……………だから、不二。何が言いたい」
「……………」
 この際、はっきり聞いた方がイイのかなと思いつつ、『僕らって倦怠期?』なんて聞けるはずもない。第一、そう直接聞けないからこういう事態に…以下略。
 が、焦ると機能がどうやらおかしくなるらしい僕の口は、婉曲な言い回しというというのが出来なくなる。
「…………いや、えと……その……倦怠期?」
 かといって、そのものズバリの単語を出したところで、主語がないので何か何だかわからなくなっているのだけど。
 手塚の方を向いて、気がついたら半笑いでそう言ったら、まぁ当然のごとく手塚の顔は怪訝なものになった。
「はぁ?」
「いや、だって、付き合い始めたばっかだけど、ラブラブとは程遠いし。その前段階から考えたらさらに付き合い長いし」
 怪訝な手塚に見下ろされると、何故か言わなくていい事まで話さなくては行けない雰囲気になるので、思わず口走っている。
けど、自分でも何言ってるかよく分かってない。
「………だから? 飽きた、とか」
 とりあえず笑って誤魔化せ的に虚ろに笑うと、手塚は呆れて肩を落としていた。
「………………意味を調べて言え。倦怠期っていうのは、もっとお互いに飽きてイヤになるような時期に対して言うものだろうが」
「……………そう、だっけ?」
「……まぁ、何と比較して言ってるのかは大体見当がつくが、あいつらとこっちじゃ大分性格が違うという事を思い出せ」
 ため息と共に言われてしまうと、反論の仕様もない。
 手塚に飽きたのかと言われたら、答えはノーだ。こんなワケのわかんない人に飽きようがないし、イヤになるようだったらそもそもこんな関係になってない。
「………そーなんだけどさ」
「第一、出来るのか? お前に。あいつらみたいなことが」
「…………」
 と、手塚に言われて考える。あいつら(つまるところの英二と大石なんだけど)、と同じように出来るかと。
あの二人のごとくナチュラルにイチャイチャと、僕に出来るのだろうか?
 人目もはばからず抱きついてみたり、スキンシップが過剰だったり。どう見ても新婚バカ夫婦的にイチャっとしてるのに、周囲に『黄金ペアだから』と納得させられる雰囲気が僕らに出せるのか?
 否、無理に決まってる。
 まず僕がナチュラルにスキンシップが出来ない。こう、何か一連の行動の一環として(たとえば手塚で遊ぼうとしてるときとか)意図的に甘えて見せるというのはあっても、自然にはない。ありえない。
「……………出来ません、けどさ」
 僕は、ちょっとばかり不貞腐れて唇を尖らせてみると、手塚はもう一度ため息をつく。
「…………第一、何故、俺が『お前に飽きた』などと言うと思うんだ?」
「……………」
 ゆるりと手が伸びて、長い指で僕の顔をくいっと持ち上げると、手塚はニヤリと笑う。
「……お前の、この外見とは裏腹に可愛くない性格に、何を考えているのかもさっぱり分からない思考回路……どうやったら飽きるというんだ?」
「……………ケンカ売ってる?」
「いや? 事実、だろう? ……安心していいぞ? お前に飽きることなど、そうないだろうからな」
「……………」
 手塚にそう言い切られて、僕はなんというか固まってみた。
 ナンデスカ、コレ。
 壮絶な告白を聞かされたような気がするのだけど、気のせい、ではないよね?
 誰だ、倦怠期だとか思ったの(イヤ、僕ですが)。ひょっとして、ではなくもの凄くラブラブなんじゃないだろうか、僕ら…。
 基本、あの浮ついた雰囲気とは無縁の手塚とこの僕なのだから蜜月状態だとしてもバカップルのようになるはずがない。
デフォルトでスキンシップが好きな英二とスキンシップをされるのに慣れている大石が一緒にいれば常に新婚さん状態になるのと同じように、ありえないのだ。
 そう考えながら、じわじわと耳が熱くなっていくのが分かる。
 わなわなと空いた口が塞がらなくなっていると、手塚は少し閃いた的な顔をして、さらになんか追い討ちをかけてくる。
「…………それと、お前がしたいと言うのなら、協力するのはやぶさかではないが?」
 楽しげな、からかう様な顔で、不気味なまでにニッコリと。
「…………何を、デスカ?」
「新婚さんごっこ」
「…………だっっっ! 言わないしっっ!!」
 第一、新婚さんごっこって、具体的にとんなコトすんだよっっ!




オワリ。   


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18000HITキリリク。小鳥由加子様から。
お題は「倦怠期塚不二(特に不二)でも最後はラブラブ」ですが! 何か違う気がする…。
何か結局万年新婚でごめんなさい(笑)最後でもなくラブラブです。




神薙様のサイトで18000番をGETv
お題は「倦怠期」・・・またマニアックな・・・(笑)
あうあぅこんな微妙リクでこんな素晴らしき小説を頂けるとは・・・!!はぁはぁ。
本当にありがとうございました〜!

小鳥由加子