〜背中合わせの恋心〜


「不二、何で後ろを歩く?」
「え……何でって…特に意味はないけど」
後ろ姿でさえも好みだな、なんて思ってた。
そんなこと言えるわけもない。
「気にしないで歩いていいよ」
変な奴、というかのようにチラッとこちらを見てまた歩き出す。
こんな風に気にかけてくれると嬉しいし、名前を呼ばれれば胸がざわつく。
これを恋と呼ぶなら、自分はきっと末期だ。
見ないでいれば、ないことにできると思っていた。
隣にいれば目が追うから。
後ろ向きなら、なんて安易な発想。
離れられずにいた、近すぎた距離に、安寧な時間とは裏腹に追い詰められた。
目を逸らしてでも感じていたかった存在。
間違ったのは、側にいたことなんだろうか?
今ではもう、なるようになれという気分で接しているけど。
前を行く手塚に、心の中で問いかける。
(きみは僕のことをどう思っている?)
何度繰り返したことだろう。
「不二?」
物思いにふけるあまり、再び見とれたように捕らわれた視線は手塚に集中していたらしい。
それに気づいた手塚がくるりと踵をかえして不二に向き直った。
目の前に立ち、見下ろしてくる。
「どうした?」
「……何が?」
「自分が悟いほうだとは思わないが、あからさまな視線に気づかないほど鈍くはないぞ」
言いたいことでもあるのなら言え、と訴えられる。
けれど不二は少し不満げに、手塚が鈍くないなんて嘘だ、と思う。
それならすぐに不二の想いに気づくはず。
隠してはいたけれど、結局は隠し切れる類のものではないのだから。
ここで意思表示したら一体どうなるのかな、と心が動いた。
「抱きつきたいな、とか思った」
そこで一旦止めて、手塚の顔を見た。
どうする?
困ったり、嫌な表情をされたりしたら笑って誤魔化そうと思ったけれど、思いのほか真剣な手塚の表情は変わることがなかった。
むしろそれが怖くて、不二は無理やり笑みを形作る。
「なんてね。冗談だよ?」
せめて声色だけでも普通に聞こえてくれることを祈って、そう明るく取り繕った。
すると手塚の眉がぴくっと動いた。
「……そうか」
「そう、冗談。そんな真剣な顔しないでよ」
笑い飛ばそうとして、失敗する。それに気づかれたくなくてさっさと歩き出した。
「不二」
「何?」
呼び止められて、振り向かずに応えた。
今手塚の顔を見たら全てが露見してしまいそうな気がする。
好きだなんて、ばれたらばれたで仕方の無いことだと思っていても、実際にそんな雰囲気になると尻込みしてしまう。
きっと自分は弱いのだと思う。
嫌われたらどうしようなんて考えるだけで怖いから。
少し歩く速度を落として、つま先で足元の砂を蹴り上げる。
距離ができたと思ったのに、気がつくと手塚の姿がすぐ後ろに迫っていた。
間近でもう一度名前を呼ばれて、仕方なしに足を止める。
すると背後から自分のものではない体温に包まれて、不二は頭の中が真っ白になった。
「……なに…?」
回された腕に、手塚が自分を抱きしめていることがわかる。
なんで?とか、どうして?とか考える前にすぐに離れた体。
急速に温もりが失われていく感覚。
「手塚?今の…なに?」
まだ混乱の治まらない頭の中で、それでも必死に言葉を紡ぐ。
「おまえと一緒だと思うが」
「……何それ?」
それでも背を向けたままだった不二が、ようやく手塚を見る。
「抱きしめたいと思ったからな」
「……何…それ」
もう一度言う。
平然な顔でそんなこと言わないでほしい。
上目遣いで睨みつけると、
「鈍くはないと言っただろう。」
微かに手塚が笑った。
それは自分の気持ちに気づいていたと、そういうことだろうか?
だとしたら、ひとが必死で押し殺そうとしていた感情を無にされた気分だけど。
「むしろ鈍いのはお前じゃないか?」
どういう意味だろうと考えるまでもない。
気持ちを知られていたという事実よりもそちらのほうが遥かに重要だ。
さっき手塚が発した一言を反芻する。
「……僕と一緒?」
「そうだな」
それって僕を好きってこと?
直接は聞けなくて、不二は困惑したような表情になる。
簡単に頷かれては信憑性というものに欠ける気がするが。
それは手塚だから、という一言に尽きるだろう。
僕のこと好き?
声に出さずに再び呟いてみる。
「……抱きついていい?」
「お前が望むならな」
軽く手を広げられて 、不二はやっと笑う。
「じゃあ止めた」
望まないわけじゃなくて。むしろ反対。
でもきっと、近づきすぎたら離れたくなくなるから。
「ねえ、手塚。隣歩いていいかな?」
今はこのくらいで満足だと思えるよ。



Fin



小鳥ちゃんより7000Hitリク。お題は『手塚のことが(密かに)好きで好きで仕様がない不二』。
謝ります。ごめんなさい。なんとなく片思いっぽくなってしまいましたが、私の塚不二は基本両思い設定ですw



しきす様のサイト、「蝶々〜てふてふ〜」で7000番を踏みましたvv
意味の解らないリクに答えてくださってありがとうございま〜すvv
すすす素敵!!この、塚不二の雰囲気が・・・!
本当にありがとうございましたv
しきす様の素敵サイトにはリンクから飛べます★


小鳥由加子