「言いましたって。」

「言ってないな。」

「俺は聞きましたよ。」

「私は言ってないね。」

もう勘弁してよ、このやり取り何回したと思ってるの?



voice・and・voice 蛇足編


「忘れないで下さいね、って俺言ったじゃないですか!」

「私はそんな事言ってないと言っているだろうが。」

本日の報告書を提出した先。俺は綱手さまと同じやりとりを続けていた。
終わりの見えなさそうなこの会話に、げっそりとしてしまうのはきっと彼女も同じだろう。

何を話しているのかと言えば、それはもう明日に迫っている俺たちの休みについてだ。
綱手さまは間違いなく俺にも完全な二日間の休みを与えるって言ってくれたのに!
さっきから「私は言ってない。知らない。」をずっと言い続けているのだ。

何をいまさら!あのねー、そんなの困るっての!
もし旅行にいけなかったらサスケの痴態が見えないじゃないか!せっかく禁欲してるのに。
つーかもう予約しちゃったし!

「ふん。何か証拠でもあるのか、カカシ。」

ねえよ!あったら出してるっての!

右唇を若干上にあげ、ニヤリと笑う綱手さまが憎たらしい。
あの会話をボイスレコーダーで録音しておけばよかった。
そしたらその会話を聞かせる事ができたのに・・・!

ちくしょー、あえていうなら証拠は俺の目とそれを記憶している脳だけだよ!
なんで俺あの時写輪眼使ってなかったんだ・・・!
そしたら綱手さまにあの時の会話を見せることができたのにーくそー!

このまま休みをもらえないなんてそんなの嫌すぎる。
ああもういいや。背に腹は代えられない。

「・・・お願いですから休みください・・・!!」

もう情けなくたってなんでも良い。俺は綱手さまに土下座した。
どう考えても綱手さまが悪いが、そんな事は言ってられない。
俺のそんな姿に驚いたのか、綱手さまの雰囲気が少し変わったのが感じられた。

「・・・そんなに欲しいのか。」
呆れられていると思ったが、綱手さまの声は思いのほか優しい響きをしていて俺は少し面食らった。

「欲しいです!ていうか人間として、休みが欲しいのは当然じゃないですか。」

「・・・そんなにうちはサスケと一緒に居たいのか。」

「居たいです!」

勢いよく顔を上げて俺は綱手さまに叫んだ。言ったあとにしまった、と思ったがそんなのもう遅い。
俺の発言を聞いた綱手さまが、顔全体でニヤリと笑ったのを目で捕らえた。
俺の背中に何か冷たい物が走るのを、うっすらと感じる。

「何で・・・。」
知ってるんですか、という前に綱手さまは楽しそうに声を出した。
「これでも女だからね、なめるんじゃないよ。」

その言葉におれの心臓は縮んだ。
この調子で実は里の勘の良い人皆にばれていたりして・・・!
どうしよう、サスケに殺されるかもしれない。

「安心しな。私しか気づいている奴はいないだろうよ。」

俺のそんな不安を読んだのか、綱手さまは両手を顔の前で絡ませて、笑いの含んだ声を出している。
そんな彼女を恨めしそうに見つめた。
しばらく俺たちの視線は絡みあっていたが、綱手さまが視線を下にずらし小さくため息を吐き出した事によってそれは終わった。

「仕方が無いな。」

暗闇の中に一筋の光が見れた気がして、現金なものだが俺の心は躍った。
「仕方が無いな。」って、綱手さま、もしかして折れてくれたんじゃないだろうか。
俺とサスケの愛を前にして、折れてくれたんじゃないだろうか!
綱手さまの次の言葉を待ち望み、薄いピンク色の口紅を塗っている唇に注目した。

「お前に2日を休みを与える。」
「本当ですか!」

俺はガバリと立ち上がり、驚愕のあまりかなり大きな声に吐き出した。そんな俺を気にもとめないで綱手さまは話を続ける。

「ただし、だ。」
「ただし?」
「上忍が必要な急な任務が入った場合、お前を呼ぶのは最後にする。それだけだ。」

つまり、何かあったときはアスマや紅、ガイなどを先に呼び、それでもどうしようもない場合には最後に俺に回ってくるということなのだろう。
それで十分だ。俺はなんだかんだ言いつつ、アスマ達の実力を信じている。
それでも一応保険のために。

「・・・特別上忍の後にしてください。」

「連休が終わったあと、お前には超Sランク任務を立て続けにうけてもらうぞ。」

「・・・望む所です。」

俺は短くそう答えた。

「ふっ・・・。青春だねぇ、カカシ。」

その言葉に、俺は苦笑で返すしかなかった。
自分でも情けないが、今俺は本当に青春していると思わざるを得ないのだ。
恥ずかしいけど、青春している相手がサスケだから良いやと思う自分も確かにいる。

「これで良いだろ?さっきから同じ話ばかりで私は疲れたよ。早く帰りな。」

うちはサスケの所にな。

そう言って綱手さまはあくどい笑みを浮かべた。
一緒に住んでいる事までお見通しなんですか、の質問は喉にひっかかってでてこなかった。

「・・・じゃ、帰ります・・・。」

これ以上弄られるのが耐えられなくて、踵を返して部屋を出ようとしたがフと疑問が頭に浮かんできた。
休みをくれた事は良いけど、この条件だけで休みをくれるなんてちょっと優しい気がする。
さっきまではあんなに知らぬ存じぬを通していたのに。
俺は顔だけ振り向いて疑問を投げかけた。

「綱手さま、なんか優しいですね。」
俺がニッコリと微笑んでそう伝えると、
「うちはサスケは良い男だからな。」
と返される。

俺の心臓は跳ね上がった。すると「私はお前と違ってショタコンじゃぁないよ。」と呆れた風に返されてもう一度心臓が跳ね上がった。

いや、別にサスケが俺より年下だからって好きになったわけじゃないんだけどね・・・。

「も、ほんと帰りますね・・・。」

墓穴を掘った自分を頭の中で百叩きにした後、ドアノブに手を掛け体半分を部屋外に出したとき。

「私は天才と言われたあんたが、アイツのおかげで変わってくのが面白いんだよ。」

綱手さまがボソリとそう呟いたのが聞こえて顔が熱くなった。

あくどい微笑と、それに恐ろしくマッチしない優しい声がいつまでも俺の心に残り続けた。




外に出ると綺麗な夕日に伴って、秋風を体に感じた。
先ほどまで綱手さまにいじくりたおされて火照ってしまった頬を冷ますにはちょうど良い。

太陽の光が肌をジリジリと焦がす反面、涼しい風が肌を掠める秋の季節を木の葉の里は迎えていた。
先日までの猛暑に苦しんでいた人々は、今は秋のその風に若干の寒さを訴えるようになっている。

暑さも寒さも兼ね揃えるこの季節は、俺の一番好きな季節だった。


しまりのないと言われる顔をにやけさせて、俺は家路を急いだ。
家に帰れば、サスケがいる。
禁欲生活を続けているためサスケに触ることはできないが、キスやセックスを我慢すればするほど何か大切なものが見えてくる気がした。


ますますにやけてしまう顔に、下唇を噛んでにやけないように気をつけた。
覆面と額あてのおかげでにやけているのは気づかれてないものだと思っていたが、ナルトには
「なんか良いことあったってば?」と、
サクラには「先生なんだか嬉しそうね。」と、ここ数日言われてしまっていた。

こっそりサスケに「俺嬉しそうに見える?」と聞いてみると、「目がキモい。」と返されて苦笑してしまう。
通訳すると、「右目が嬉しそうにしている。」ということなんだろう。

いくら2連休が控えているとはいえ、連日の任務には流石のナルトもサクラも疲れているように感じられた。
まぁ当たり前だ。本当なら少しずつ休みを減らしていって下忍に体力をつけさせていくんだから。

「今日で終わりだからな〜。がんばれよ〜。」

そう声に出すと途端に元気になる。二人だってアカデミーを卒業して以来2連休なんて貰えた事ないんだ。
楽しみになるのは仕方が無い。
それでもしばらくするとすぐに疲れをだしてフラフラになってしまっているのだが。
サスケだけは常にキビキビと元気なのは、さすがというべきなのか。
それとも、もしかして俺と同様旅行を楽しみにしていて、テンション高く毎日を過ごしているのだろうか。

サスケも俺と同じ風に思っているのだろうか。
そう考えると、やっぱり顔がにやけてしまって。血が出ても良いやともう一度下唇を強く噛んだ。



時間が過ぎるたびに、サスケへの想いが増えていくのにはなぜだろうか。
誰かをこんなに愛しいと想えたのはあいつが初めてのことだった。



物思いに耽っていた俺の耳に軋む音が聞こえてきて、自分が今自宅に通じる木製の階段を登っていることに気がついた。
俺の前には、古びたドアが見える。





このドアの向こうには、いつも通りサスケが俺の帰りを待っている。






中編になっちゃった・・・。ただの蛇足です。
前編のあれだけで綱手さまが休み許可はしないよなーと思って補足しただけなのです。
まぁそれでも大分甘いですよね綱手さま。
それにしても、休み2日にするか3日にするかすっごい悩んだんですけど、(2連休にしても7班は特もなにもしてないですし。)
でも3日だとカカシ休み貰えんよなぁと思って2日にしたんだけど。いま考えれば、上忍にも結構自由ありそうですよね。
サスケと二週間も崖の上で修行してたし。まーいいや(笑)


おおおおん次こそえっちで!
次の話が書きたいがために始めた話なのでしたv(笑)

2007/10/08

小鳥由加子