「すげぇな・・・。」
眼前一杯に広がる赤い景色を見つめて、サスケはさっきからこの言葉しか口に出していなかった。
その言葉を聞いて、俺も何度口にしたかわからないが、「そうだなぁ。」と返す。
俺たちが旅行に選んだこの国は、10月に紅葉が見れる綺麗な国だった。
サスケは何か派手な事をするよりも景色を楽しんだり、ゆったりとした時間を過ごす方が喜ぶんじゃないかと思っていたが
やはりそれは正解だったようだ。
もうどのくらい歩き続けたかわからないが、散歩が趣味のサスケは全く苦じゃないようだ。
俺だって、サスケと一緒だから全然苦じゃない。
サスケと目があったのでニコリと微笑み返すとサスケの手に力が入ったのが握り合っていた俺の手に感じられた。
サスケの肌が紅葉の色が写ったように、赤く染まっていた。
voice・and・voice hotel編
「・・・ここに泊まんのか。」
サスケの少し驚いた声が俺の耳に届いた。
俺はそんなサスケに非常にビクビクしていて、口元がヒクヒクと動いてしまっている。
俺たちの目の前には、かなり高級そうに見えるホテルが建っていた。
「やだ?」
「誰もんなこと言ってねーよ。ただ、あんた旅館派だと思ってたから驚いただけだ。俺は別にどっちでもいーぜ。」
その言葉を聞き、俺は半分ほっとした。
サスケは旅館派だと思っていたから、このホテルを見て嫌な顔をされてしまうかもしれないと思っていたのだ。
でも実際はそんなに拘りはないらしい。そういえば、サスケの実家も和洋折衷だったのを今更ながらに思い出した。
「ん〜そっかそっか。そいつは良かったなー。」
うんうん、と顔を上下に激しく振りながらそう言う。
それを見たサスケが怪訝そうな顔をしていた。
「・・・早く行こうぜ。」
うんうん、と顔をずっと上下に振り続ける俺に、サスケは催促した。
俺はもうここまで来たら言うしかないのかと体中に冷や汗をかいていたのが。
でもそれを言ったら、サスケは間違いなく激怒すると思うわけだ。
でも言わなきゃ多分このホテル入れないし、それだけは絶対嫌だ。
だって俺はこのホテルになんとしてでも入りたいのだサスケと。
「おいカカ」
シ・・・、とサスケが俺の名前を呼びきる前に・・・。
俺はサスケの眼前に手を合わせ、頭を下げた。
最近頭を下げてばかりいるのはきっと気のせいなんかじゃないだろう。
「何だ」
よ・・・、と言い切る前に俺はサスケに大声でお願いをした。
「悪いサスケ!!変化の術使ってくれないか!」
数十秒の沈黙があたりを支配していた。夜の秋風が音を立てて吹き込み、服を揺らし、肌に冷たく当たった。
「女にか。」
その秋風に負けないくらいの冷たいサスケの声が聞こえた。
「いや、女には俺が変化するから、お前は男に変化してくれないかな!」
「・・・一緒だろうが。」
「ちょっ、サスケ!」
クルリと踵を返したサスケは、スタスタと夜道を歩き始める。
俺はそんなサスケにやっぱりなーと思いつつも大変焦った。
サスケは勘違いしているのだ。
きっと俺がホテルの人に「兄弟」だとか、もしかしたら「親子」だとか勘違いされるのが嫌だと思ってあんなこと頼んだんだと思ってるんだ。
(いやさすがに親子に思われたらショックだけど。)
でもそんなんじゃない。
変化しなきゃ間違いなくフロントで止められるんだから仕方がないだろう。
だから俺はなんとしてでもサスケとこのホテルに入りたいんだ!
「違うんだってサスケ!」
「何がだ!」
サスケの左手首を力強く掴むと、勢いよく顔だけ向けそう言った。
目が怒りに燃えていて、写輪眼が浮き出していた。
そんなサスケをみて恐怖に慄いたが、その反面怒るサスケが可愛らしかった。
「帰る。」
手を振り解こうとするサスケに、俺は力を入れてそうはさせまいとする。
「離せよ!」
「違う、サスケここラブホなんだって!!」
風の音しかしないこの暗闇の中で、思ったよりも俺の声が響き渡る。
サスケは漫画のようにピシリと固まった。あーやっぱそうなるよねー。
結局状況変わらず帰るなんて言い出すかもしれないのだが。
だってサスケはラブホとかそういう如何わしい所好きじゃないのだし。
「ら・・・。ラブホなのか・・・?」
たっぷり時間が経過してからサスケは声を震えさせながらもそう言った。
声と同時に体も震えているのが凄く可愛くて、噴出しそうになったのを懸命に堪える。
全くもって笑える状況じゃないしね。
「うん・・・。ラブホテルです・・・。」
「だからカップルにばけるのか・・・?」
「うん・・・。さすがに止められちゃうよね・・・。」
あきらかに20代後半の成人男性が、あきらかに10代前半の少年を伴ってラブホテルに入ろうとする。
だれがフロントに居たって確実に止めるだろう。
でも俺たちは忍者だ。
チェックインとアウトする時にカップルに変化すれば良いのだ。
俺とサスケの性別と年齢の危なさは二人とも理解していた。
「・・・ぜ、ぜんぜんラブホにみえねー。」
「めちゃくちゃ高級のラブホだもん。」
ていうかサスケ、お前ラブホ見たことあるの?、とはなんとなく聞かずにいた。
サスケは目を伏せて、何かを考えている。
あーやっぱり「帰る。」なんて言われてしまうのだろうか。
ドキドキドキドキしていたら、勢いよくサスケが顔を上げ、瞬間真っ赤になった。
「や、やっぱり、今から帰るのも大変だしな・・・。」
もうこの言葉にはノックアウトだ。
つまりはあれでしょ?本当はラブホテルなんて恥ずかしくて嫌だけど、ここまで来たら良いっていうか、俺となら良いとか?
いやいやそれは自意識過剰だよな今まで嫌がってたし。
「お、俺が女に化けるからあんたそのままで居ろよ・・・。」
でもなんだよサスケ、お前も俺のこと好きなんだ!
「サスケ、俺もお前が好きだよ!」
「うっ、うすらばか!」
『俺も』って所にはつっこまない、そんなサスケが大好きだ。
真っ赤になりながら印を結ぶサスケを抱きしめたくなったが、それは懸命にこらえた。
(邪魔したら変化失敗しちゃうしね。)
ボフンと音を立てて現れたのはキレイな女性だった。
誰が見ても、彼女はサスケだった。
黒の長い髪に、黒の服。スレンダーな体型に、暗闇でも美麗な目元がよく見える。
「可愛すぎ。」
咳払いをしながら口元に手を当てる。
サスケが困った顔をして目をそらしたのが愛しかった。
+
「すっげぇな・・・。」
「うーん、そうだなぁ。」
ホテルの外観もすごかったが、内装もすごい。
とてもじゃないけどラブホテルだなんて思えなかった。
キョロキョロとあたりを見渡し歩き回るサスケ(変化は部屋に入った瞬間にといた)の後を俺もついていく。
まぁそれでも風呂場を見た時、「やっぱりラブホだな。」と思ったけど。
そこにあったのはマットとスケベイスだった。
サスケは特に気づかないで「でっけえな・・・。」とつぶやいていたが。
「一緒に入る?」
「はいらねーよ!!」
まぁ終わったあとに嫌でも一緒に入ることになると思うから良いけど。
「サスケ先に入りなよ。」
そう微笑めば、ヒクリと固まってサスケは下を向く。
「も、もうすんのか・・・。」
うつむいてボソボソ喋るサスケの声を辛うじて耳に捕らえる。
その言葉の意味を理解して苦笑した。
「別に出たらすぐするわけじゃないよ。」
我慢できずに笑みを見せたら、サスケは恥ずかしそうな顔をした。
「色々歩き回って疲れてるだろ。さきに入ってゆっくりしておいで。」
サスケの肩を抱いてそう言う。サスケが声を出さずに頷いたのを横目で捕らえた。
「風呂から出たらこれ着なよ。」
サスケを腕から離し、脱衣場にキレイにたたまれた状態で置かれているバスローブを片手に持ってニヤリと笑う。
が、それを見てもサスケは何なのか理解できてないようだった。
仕方ないので両手でバスローブの肩の部分を持ち、広げてみせる。
それが何なのか理解したサスケが俺に素晴らしい回し蹴りをくれた。
これが修行中だったら100点満点あげても良いくらいの出来だったのに。如何せん今はラブホの中だ。
「そんな卑猥なもの着れるか!」
真っ赤な顔をしたサスケに、そのままの勢いで脱衣場から追い出される。
バタン!と大げさなほどドアが唸った。
・・・バスローブって、別に卑猥じゃないのよね?
頭をポリポリとかきながら、テレビの前にあるソファーに身を沈めた。
任務じゃなく、プライベートでこんなに歩き回ったのは久しぶりだった。ソファーに体が沈む感覚が逆に疲労感を煽っていた。
それでも、任務じゃなくプライベートでの疲労は心地が良いものだと、今やっとわかった気がする。
しばらくすると、風呂場からシャワー音が聞こえだす。目をつぶり、音をしばらく感じていた。
これから起こる事を考えると、下半身に熱が集まりそうになる。
26歳、ごくごく普通の成人男性。
いくら愛する恋人との自由に羽ばたけるセックスが待っていようとも・・・
一週間の禁欲は本当にきつかった。
何度もサスケを裏切りそうになったが(右手で)、目くるめく輝かしい未来を想って我慢した。
ゆっくりと目をあける。
意味もなく回りを見渡した。何か悪いことでもするのか?と問われれば…、若干そうかもしれない、とそう思う。
サスケがシャワーを浴びだしてもう5分は過ぎただろうか。10分はまだ立ってない気がする。
俺はイソイソとクローゼットの近くへと足を運んだ。
あまり音が立たないようにゆっくりとクローゼットを開けると・・・、お目当てのものが姿をだした。
やっぱりラブホテルだ・・・、とさっきと同じ事を思う。
そこにあったのは・・・、エッチな販売機だった。
高級ホテルだからもしかしたらこんなものないかも…と思ったが、他のホテルと同じ雰囲気で佇んでいるソレにほくそえんだ。
その販売機は俗に言う収納ボックスタイプで、いくつかの引き出しがある。引き出しを開いた段階で料金が加算される形式なんだろう。
引き出しが透明のため中身がわかるようになっているが、横にも簡単な説明書きがある。
一段目にはコンドーム五個が入っていて説明欄には
「備え付けだけでは物足りないラブラブな貴方達に!」
なんて書かれている。一瞬引き出しを開こうとかと思ったが、『コンドームがない』って言ったら生でやらせてくれるんじゃないだろうかと思ってやめた。
ベッドにサイドに置かれているコンドームの数は2つだった。
間違いなく2回以上は致すと思うし。何てったって俺もサスケも約一週間キスすらもしてないんだ。
今日久しぶりにサスケの手を握っただけだった。
二段目には潤滑剤が入ってて、これは迷わず引き出しを開いた。
目線を下に下げるとドンドンと引き出しの内容が怪しいものになっていって、ローターやバイブなんかも顔を出しはじめていた。
俺は悩んだ。
だって、二人で旅行、ホテル(つーかラブホ)なんてもう来れないんじゃないか。
こんなに思いっきりセックスできる事なんてもうないんじゃないだろうか。
そう思うと・・・、ついついローターの引き出しにも手が伸びてしまう。
いや、でもサスケはまだ子供だ。
子供にエッチな事をしているなんてことだけでもかなり駄目な大人なのに、ラブホに連れ込んでこんなもん突っ込もうとして・・・。
そう思うと・・・、ローターの引き出しから手が引いてしまう。
俺の中の天使と悪魔が大喧嘩していた。
それでもやっぱり俺はサスケが好きなのだ。大好きなんだ。ラブなんだ。
サスケが乱れてる姿が見たかった。こんなチャンス、めったにない。
フーッと深呼吸をする。その場にゆっくりと腰を下ろし、引き出しの前で合掌した。
「宜しくお願いします。そしていただきます。」
何に宜しくなのか、何がいただくなのか自分でもわからなかった。
でもきっと、サスケが怒りませんように、サスケが素直に従ってくれますように、美味しく頂けますように、という意味なのかなーと思った。
引き出しを勢いよく引っ張り、丁寧にピンクーのローターを手に取った。そのまま、今度は乱暴にポケットにつっこむ。
ついにやってしまった、ここまできたらもう使うしかあるまい。
清々しい気分で立ち上がる。そのままソファーに戻って、テレビのリモコンを手に取った。
っていっても、別に見たい番組があるとかじゃないんだけれど。することもないし。
何もしないでサスケが出てくるのを待ってるってなんか必死すぎない?(必死なんでしょと言われれば否定はできないかも)
それでも手もち無沙汰なのは変わらなかった。仕方がないので冷蔵庫からビールを取り出す。
とりあえず手だけでも動かしとけば良いか。
ビールの缶ををあけようと思ったら、ちょうどサスケが風呂から出てきた。そしてやっぱり、いつも通りの服装だ。
ビールを手にしてる俺を見て、少し怪訝な顔をした。
「今から風呂入るのに飲むのかよ。」
「ん、あぁ。ノドかわいたから。」
「じゃー水にしろ。」
俺の横に立って、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。
ペットボトルのそれをあけ、一口飲んでから俺にくれた。
触れた指先が熱かった。はたしてそれは風呂上りだからなのか、それとも。
俺も一口だけ飲んで、サスケに返す。
「それで寝るつもりなの?」
「う、うるせぇよ…。」
「あぁ全裸か。」
「はっ…?」
「俺脱がすからー。」
うすらトンカチ!!!!!
と、蹴りをくらう前にサスケをすり抜け脱衣所に身を潜めることにしようか。(上忍ですから楽勝ですとも。)
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一応この話は10月くらいということで書いてるんですが(笑)
10月に紅葉が見れるの北海道だけなんですかね?ごめんなさい所詮道民なんです・・・(汗)
北海道に住んでると、世間一般の季節感とずれてるから色々書きにくい!
そこらへんはスルーしておいて下さい・・・。
とりあえず、話にも書いてますけど、北海道のような気候の所に旅行へ行っているということにしてくださいv(笑)
ものすごく長くなっちゃったんで、二つに分けちゃいました。
それにしても、高級ホテルにえっちな販売機ってあるんでしょうかね。
次でおわり。
2009/3/15
小鳥由加子