盲目少年の恋愛.



サスケがこの里に帰ってきてから、もう数年がすぎた。

全てが終わったあと、サスケは忍びをやめると意思の強い声で言った。
ま、それは、俺の予想通りだったわけだけど。

ナルトやサクラは最後まで反対していた。やっと、また自分たちと任務ができるって、前のような関係に戻れるって、思っていたんじゃないかと思う。
それでも、理由を聞いたら納得せざるを得なかったみたいだ。
サスケが里に戻ってきた時、すでに彼の目はもうほとんど見えていなかったようだ。
落とした物をすぐに拾えない姿や、ナルトとサクラを間違って話しかけている姿を見てしまったら、何も言えなくなってしまったのだろう。

人があまり住んでいない静かな場所で、ひっそりとサスケは暮らしていた。
俺たちは時間が許す限りサスケに会いに行った。
だって、心配じゃないか。目が見えてないのに一人で暮らすなんて。
これでも一応説得したんだよ。それでも、サスケは誰の世話にもならないって頑なに拒んだんだ。
事実、サスケは誰の世話にもならなかった。人知れず努力していたんだろう。
目が見えなくても感覚で、気配で、雰囲気で、全てを悟るようになったサスケには、「さすがサスケだな。」て思わずを得ないじゃないか。

俺がサスケに会いに行く時間は、もっぱら夜だった。
サスケが住んでいる家のベランダのすぐそばに、大きな木がある。
サスケの家に一人で行った時、そこに降り立つと、サスケがベランダに立っていた。
音も立てずに降り立ったはずなのに、間髪いれずに「カカシか。」と声が聞こえたあの日は、いつのことだったろうか。

もう思い出せない。

だって、それから俺がサスケの家に行くときには、いつもそのやり取りをするようになったんだから。

決まって夜に会いに行く俺に「あんたは昔っから迷惑なやつだな。」とぼんやりとした目でサスケはいつも言う。
けれど、光が見えなくなったその目は、昔と変わらない色を示している。

何も変わらないと、俺は思うのだ。


俺もサスケもあまり会話するタイプじゃないから。
サスケに会いに行くっていっても、サスケの家に入れてもらって、コーヒーでも飲ませてもらって、一言二言会話したりしなかったり、って感じだ。


なんとも不思議な関係で、不思議な時間をすごしていたように思う。

それでも、確かにそこはとても居心地が良い空間だった。




「オレはもう何も失いたくない。自分勝手だけど、そう思う。」

その言葉を聞いたのは、サスケと会う前までこなしていた任務で、怪我をしてしまったのがバレた時だ。
そんな酷い怪我でもなかったし、ぎちっぎちに包帯を巻いてたし、問題ないと思ってたからサスケに会いに行ったけど、それはサスケを傷つけるだけの行為だった。
俺の胸に倒れ掛かるように頬を当てて、小さく「怖い」と呟いたサスケの脳裏には、目の前で死んでしまった父親や母親の事が映されているんだろうと思った。


以前のサスケはこんな事決して言わなかった。
だけどやっぱりサスケは昔と何も変わらないと思う。昔から、ずっと怖かったんだろうと思う。
誰かを失うのが、きっと怖かったんだと思う。だからあんなにツンツンしてたのかな。
馬鹿な子だね。


その出来事は、俺の想いを、俺自身が認める事となった。


俺はサスケの事が好きになっていた。


それだけでもすっごく驚くべき事だったのに、さらに俺は自覚してからすぐにサスケを抱きしめる、なんて暴挙に出てしまった。

「自分勝手じゃないよ、そう言ってくれて俺は嬉しい。」

自分でも驚くくらいに綺麗に声がでた。
きっと、今まで生きた中で一番素直になれた瞬間だったような気がする。
しばらくお互いに沈黙状態で、俺はだんだんと我に返ったというか、なんというか。
どんどんと体が熱くなっていって、顔が熱くなっていって、この腕を放すタイミングはいつだろう、って色々考えてしまった。
そしたら、「フッ」とサスケが笑った。

「あんた、今 顔真っ赤だろ。」


そう言ったサスケの顔も、真っ赤だった。


「カカシの匂いがする。」


あの時のサスケの声、今でも忘れない。


………それから先は、俺ららしいというかなんというか。


他の人が聞いたら、「そんなのありえない。」って言われると思うし、もしかしたら引かれるかもしれない。

特に想いを伝え合わずに、俺たちは関係を変えてしまったから。

もちろん、時間をかけて、ゆっくりとだけど。

ただ、雰囲気で俺はサスケが好きだ、っていうのは伝わってると思うし、サスケも俺の事を・・・、っていうのも雰囲気でわかってた。
現にサスケに触れても、彼は何も言わなかった。







任務が終わると、俺はすぐにサスケの家へと向かう。
一ヶ月くらいかかった長期任務のせいで、俺はずっとサスケと会っていなかった。

自然と足が速くなる。もうすぐ会えると思えば、動悸が荒くなる。
冷たい空気が俺の顔に当たる。少し風が吹くたびに周りの木々が大げさに震えていた。
その音が聞こえるたびに、気持ちが焦った。

いつものように、いつもの木へ、いつもの枝に降り立つと、いつも通りサスケがそこにいた。
何も言わずに長期任務に行った俺を、お前はこうやって毎日待ってくれてたのかな、って思ったら、言葉で表せれない気持ちがブワッとあふれ出た。

「・・・カカシか・・・?」

いつものようにそう言うサスケのそばに降り立って、そっと肩に触れた。
少し、冷たくなったその体から、サスケの想いが感じ取れた気がした。

「・・・カカシか・・・?」

もう一度、そう尋ねるサスケに、俺は『そうだよ。』と云う想いをこめて、抱きしめた。
そのまま勢いよくサスケの体を抱き上げる。「うわっ」と、サスケの驚いた声が耳に届いた。

「ちょっ、と、待て!!」

声を無視して、寝室へと足を進める。何をしようとしているのか感じ取ったのだろう、サスケは焦ったような声を出した。
サスケの眉間がぴくりと動いたのも構わずにベッドへとやさしくおろした。
服に手をかけると、サスケの手が俺の手に重ねられて驚いた。冷たすぎる。

「ま、待てって!!アンタ、」

その言葉を遮って、そっと手に口付ける。冷たい温度が、オレの唇に伝わった。
ピクリ、と動きの止まったサスケを尻目に、服を脱がす作業を再開する。
露になった体にしつこく唇を落とすと、そのたびにピクピクとサスケの体が震えていた。

「はっ・・・、待て・・・、って・・・!オレ・・・、」

待てないよ。

そういう意味を込めて、今度はサスケの唇へと、自らのそれを落とす。
自然な流れで、そのまま首筋へと顔を下ろした。

「まっ・・・・・・・・・・。」

フと、後頭部にジリっとした痛みを感じる。
サスケが俺の髪を掴んでいると気づいたのは痛みを感じたすぐ後だ。

『どうしたのよ。』

そう口に出そうとしてギョッとした。
サスケの目から涙が出てたからだ。

「・・・・えっ・・・・・。え、何、どうしたのよ・・・、サスケ・・・。」
「待、てっつってんだろーがっ!!」
「・・・うん・・・え・・・?」
「・・・あんたカカシか!?」

ひどく震えた声で、そう言った。サスケのこんな大きな声だって、ここ数年聞いたことがない。

「・・・何言ってんの・・・?俺はカカシだけど・・・。」

サスケは安心したようにそっと目をとじて、右腕で両目を隠した。
何を言い出すのかと思えば。

「アンタといると怖い!」

若干裏返りつつも、サスケの震えた唇からその言葉が出された。
それの意味が理解できず、俺はポカンと口を淡く開く。

「怖いんだよ、アンタ・・・。」

繰り返し「怖い」と呟くサスケを見て、ズズッと、サスケが鼻を啜る音を聞いて、不意に、その言葉の意味が理解できた。
ガツンと鈍器で後頭部を殴られたような衝撃を覚えた。

・・・なんて、情けない。

二人でいると居心地が良い。そう思っていた俺の考えが、ガラガラと崩れ落ちる音が聞こえた。

所詮それは俺の一方的な想いだったのか。
つい数秒前まで高調していた気分が、シュルシュルと風船から空気が抜けたように縮んだ。
鼻を啜るサスケが、どこか遠い存在のように見えた。

「・・・そ、うか。」

その一言しか、俺は言えなかった。
本当に情けなかった。
『何で怖いの?』とか、聞きたい事はたくさんあって。口に出したい言葉が頭の中でたくさん作成される。
でも結局は口に出す前に、泡のようにシュワシャワと消えてなくなっていく。
頭の中がめちゃくちゃになって、サスケを見れない。声も聞きたくない。

何より、こんなバカな自分が恥ずかしい。


「・・・オレ・・・、」

でも、本当は聞きたいくせに。サスケの体の上から俺はそっとどけた。
サスケもベッドから上半身を起き上がらせて、口を開きかけていた。

俺は、サスケの口が完全に開ききる前に、サスケの前から疾風のごとく姿を消した。

これ以上サスケを怖がらせないために、とはただの言い訳にすぎないだろうけど。
まったくもって男らしくないと思うけど。

何も理解できず、理解しようともしないで、しまいには逃げ出した。
史上最悪な男に違いない。今まで生きてきた中で、こんなに情けない自分を見たのは初めてだ。







それから、一週間ほど俺はサスケの家に行かなかった。
行かなきゃなぁ、と思いつつ。行ったら、なんか色々駄目になる気がした。
後悔ばかりがよみがえる。



「カカシ先生〜!!」


日付がかわりそうな時間に任務が終わった俺は、トボトボと家路を急いでいた。
急ぎながらも、サスケの家に行こうかと悶々と考えていた俺に、ナルトの焦った声が耳に届く。
後ろを振り向けば、ナルトが右手を大きく振りながら、俺に向かって走ってきていた。

「・・・どうした?」

そのただならぬ雰囲気に、自然と身が引き締まるのを感じた。

「カカシ先生、サスケ知らねーか!?」
「・・・は?」

思いもしない言葉に、俺は思わず間の抜けた声を発してしまった。
そんな俺をまったく気にした様子のないナルトは、さらに言葉を続ける。

「今、サスケんち行ったらサスケいねーの!こんな夜中に!」

サスケは、人里外れた所にひっそりと暮らしている。
それは、サスケが人と付き合うのが苦手だから、だとかで、日中でも買い物くらいしか街中に降りてこなかった。
だから、こんな夜中にサスケが居ないなんて、確かにおかしい。
脳裏に浮かぶのは、この間のサスケ。

「・・・って、何でお前こんな夜中にサスケんち行ってんのよ。」
「え、なんとなくだってば。」

・・・なんとなくってお前ね。お前のその無邪気な心が羨ましい。
邪心がないからそんな行動ができるのかも・・・。

「・・・とにかく、俺も探すから。」

サスケの事だから大丈夫だとは思うけど、と付け加えれば、不安そうな顔をしていたナルトが「そうだよな。」と返した。

「オレ、もっかいサスケの家行ってみるってば。」

そう言って、ナルトは踵を返して駆け抜けていった。
一方俺は、その場に佇み、どこに行ったんだろうかと考える。

アイツが行きそうな所とくれば。


「俺の家・・・?」


思ったら、全身に鳥肌が立った。意味もなく、その場でしゃがみこむ。


「・・・俺の家か!」


そう叫んで、俺の住むボロアパートへと足を速めた。
アパートへ着いて、そのままの勢いで、古い階段を上る。
階段がキシキシと唸り、今にも崩れそうだった。
上りきると、すぐ目の前に俺の部屋がある。
あるのだが。

・・・そこにサスケの姿はなく・・・。

柄にもなく、息が上がった状態で、鍵がないから入れるわけがないと判っているのにドアを開けて、部屋に入って。
・・・やっぱりサスケの姿はなく・・・。


はぁ〜・・・。


「だよなあ〜・・・。」


ため息が、部屋の中に吸収されていくのを、ぼんやりと感じた。
玄関に座り込み、右手で口元を包んだ。


「・・・オレ・・・、」

「・・・あの後、あいつ何言おうとしてたのかな。」

どうせ情けなく、惨めな気分になるんなら、そのあとの言葉を聞いておけばよかったじゃないか。
ほんの一週間前の俺を殴ってやりたい。
でも、さっきまでサスケに会いに行く勇気が出なかった自分が、そんな事できた義理ではないのだと、気づく。


「怖いんだよ、アンタ・・・。」


泣くなよ、サスケ。お前が泣いてる所なんて、初めて見た。
今まで、どんな事があっても泣かなかったくせに。

そして突然頭によみがえった、サスケがいつもいる場所。
泣かないサスケが、いつもそこに行って、ぼんやりと景色を見つめている。
辛い事があった時とか、嫌な事があった時とか、いつもそこに行ってる。

湖のほとりに一際大きな木が立っている。その木の太い枝に座るサスケが、クリアに思い出された。

「あそこか・・・。」

今まで気づかなかったのが不思議なくらいだ。

「あ。」

そうか、目が完全に見えなくなってから、あいつがあそこに居るの見てないからだ。
少しでも目が見える頃は、よく行ってたのに。

不思議だよな。
あんなにあそこにいるのを見てたのに、少し見ないだけでこんなにもその存在を忘れるなんて。


サスケは、そんな俺が嫌だったのかと思った。
雰囲気が変わったとか?だから怖いって?

「・・・とにかく、行こ・・・。」

ゆっくりと立ち上がり、お尻についた砂をパタパタと掃った。
情けないから会えないだとか、そんな事はもう気にしない。
気にしたら負けだ。そう思うことにしないと、いつまでたっても会いにいけない。

家の鍵を中からかける。そのまま部屋に入り、ベッド近くにある窓から木へと乗り移った。
そのまま、木から木へと乗り移って、サスケがいつも行く湖へと足を進めた。







「カカシか・・・。」

でっかい湖に立っているでっかい木の上で、サスケがボンヤリと座っている。
夜風が、サスケの髪を揺らす。オレは音も立てずにサスケの隣に座った。

「・・・こんな夜中に、一人で、いくらお前でも危ないよ。」
「心配すんな。」

器用に木の幹に立てかけていた杖を、俺に見せるようにサスケは手にもった。
だからって。
いくら、杖であたりを察知してたからって。
いくら、気配で何があるのか察知できるからって。

「よく判ったな、オレがここに居ること。」
「・・・さっきまで気づかなかった。」

サスケが、俺に顔を向ける。

「・・・でも、お前が落ち込んでる時、よくここに来てたよな、って思い出したわけよ。」
「・・・ここに来ると、落ち着けるんだ。」

昔から、とポツリとつぶやく。

「・・・あのさ、お前、俺が変わったと思ったの?」
「・・・は。」
「ずっと会ってなかったから、雰囲気とか違ったのかな、って思って。」
「・・・アンタに、ずっと、言いたいことがあった。」

俺の問いに答えず、サスケはそう言った。
サスケの言いたいことは、別れ話の事だろうか、とうっすらと考えた。
いや、そもそもサスケの中では付き合ってるという意識すらもなかったかもしれない。
とにかく、この奇妙な関係を解消させようと思っていたのに、俺があの日以来パッタリとこなくなったせいでそれを言う事ができなかったんだろうと思う。

サスケはぼんやりと、視線を下の方に向けていた。

「オレと別れてくれ。」

予想していたとはいえ・・・、やはり言われると心が泣きそうになるわけで。
呼吸が止まってしまう感覚に陥ってしまうわけで・・・(むしろとまってたかも)
(あぁでもサスケの中ではちゃんと付き合ってるって感覚があったんだと、そこは(微妙に)うれしかったけど・・・。)

「・・・なんて言われると思ってんダロ。」

そう続けた言葉を理解するのに随分時間がかかってしまったように感じた。

「・・・じょ、だんなの・・・。」
「冗談に決まってる。」
「え・・・?」

サスケは、俺の胸に倒れ掛かるように頬を当ててきた。
そのまま、鼻を啜っている音が聞こえて、サスケがまた泣いている事が窺い知れた。
俺はそんなサスケをピントが合わない画面で見た。ぼーっとして、ただ時間が過ぎるのを待っているようだった。
でも、時間がたてばたつほどどんどんと頭が混乱していく。
サスケの気持ちがわかっていなかった自分が恥ずかしいっていう想いが、サスケに触れたことによって沸々と湧き上がってきた。
やっぱり、最初から、自分の一人よがりだったんじゃないかって、サスケは自分の事、何も想っていなかったんじゃないかって、キシキシと心が痛む。
顔に熱が集まっていくのが感じ取れた。

そしたら、震えた声で「フッ」とサスケが笑った。

「あんた、今 顔真っ赤だろ。」

そう言ったサスケの顔も赤かった。
それを見たとき、現金にもフッと、体の力が抜けた。

サスケが話しづらそうにしているのに気づいて、そこは勇気をもって俺は口を開いた。
小さなため息をサスケはそっと吐いていた。

「何で・・・、あの時、俺のこと怖いって言ったの。」

自分なりに、サスケを落ち着かせようとやさしい声はずなのに、ようやく搾り出したその声は、自分でも驚くほど感情が感じられない音色をしていた。
自分が惨めだと思うその気分が、明るい声を打ち消してしまったのだろうと思った。

「アンタはいつも何も言わない・・・。」
「え?」
「時々・・・、オレは誰と一緒にいるのかわからなくなる。」

震えながらゆっくりとサスケは息を出した。
右腕を、ゆっくりと口元へ持っていくのをぼんやりと見つめた。
光のささないその目から、ボロボロと涙が流れ出ていくのが、不思議だった。

目をきつく閉じた。その言葉の意味を、頭の中でゆっくりとかみ締めた。
あぁ、そういうことだったんだな、って思った。

サスケには俺が見えない。見えない相手から、何も言われない。
俺とは最初から状況が違うのだ。
なんでこんな当たり前の事に気づけなかったんだろう。

でも、だったらすぐに言ってくれれば良いじゃないか、怖いなら怖いって言ってくれれば良いじゃないか。
サスケに対する文句がたくさん出てきた。言いたいことがたくさんあった。
それでも、脳裏に浮かぶたくさんの言葉を退けて、俺は「ごめん・・・。」と呟いた。
それは情けないほど枯れていた。

「雰囲気が変わったとかいう以前に、アンタがアンタなのかわかんねーんだよ、ウスラトンカチな事言いやがって。」
「あ・・・、でも、考え近くなかった?」

オレが苦笑しながらそう答えると、サスケが「20点だな。」と馬鹿にしたように答えた。

「一週間も時間があったくせに、あんな答えだとはな。」

・・・答えに行き着いたのはついさっきなんだけどね。

「・・・初めてキスされた時も、アンタは何も言わなかった。」

えっ?って思った。いきなり何を言い出すんだ、っていうのもあったし、それに、サスケの顔がますます赤くなっていったから。
そうだっけ?とも思った。キスするときに何も言わなかったら、気づかなくないか?

「しばらく、何されたかわかんなかったぜ。」

あ、やっぱり。

「それに、・・・オレ、アンタに好きだなんて言われたことねーよ・・・。」

次は、あ・・・、って思った。俺は、言わなくても伝わってると自信を持って思っていたのだ。
だけど、サスケは不安だったんだ。


あの時、サスケを抱きしめた。
それで、なんとなく、オレの気持ちなんとなく気づいたかな。って思った。
考えてみればそんなわけないかもしれない。
だって、俺自身がその数秒前に自分の気持ちに気づいたばかりなのに。

でもそれから、度々そういう事があったから。やっぱり、気づいてるよなって勝手に自己解釈してた。
お互いに気持ちを伝える事はなかったけど。


・・・俺って本当に救えないほどの馬鹿だ・・・。


「・・・でもごめん・・・。オレも、あんたに好きだって言ったことなかった・・・。」
「あ・・・。」
「わるい・・・。」
「・・・俺の事、好きなの。」
「・・・好きじゃなきゃ、抱きしめられたり、キスされたり・・・、アレだって許すわけねーだろ・・・。」


本当に現金なものだと思う。サスケの口からそれを聞いた時、ポッと周りが明るくなったように感じとれた。
重たい空気が消えて、そこだけ世界が変わった感じ。
数分前と同じシチュエーションなのに、こうまで違うものか。気持ちって本当に大事だと思う。

新しい涙はもう出ていなかった。けど、声はまだ震えたままで、サスケは言葉を続ける。

「でも、日に日に不安になった。アンタ、普段から何もいわねーのに、ますます何もいわなくなったじゃねーか。
・・・時々アレの時だって何もいわねー時あったんだぞ!・・・だから、アンタが本当にアンタなのか、すげー怖くなるときがある。」

この間は久しぶりだったから、特に怖かった。と、続けてサスケは言った。
考えてみれば、この間、初めてサスケに話しかけた言葉は、サスケが泣いたあとの「・・・・えっ・・・・・。」だったんじゃないかと思う。
この時はじめて、自分の体に触れているのが俺だと確信を得れたんだろう。
あぁ、最悪だ。こんな最悪な男、世界で俺だけに違いない。
頭をワシワシとかいた。サスケの肩に手を置いて、俺の体から離した。
そのままの勢いで頭を下げる。

「・・・ごめんね・・・、ごめんなさい。」
「この間なんて、オレの話も聞かないで帰りやがった。」
「・・・申し訳ありません。」
「あの時、アンタ、俺が「カカシか?」って聞いても返事くれなかったじゃねーか。」
「・・・俺はカカシです。」

おせーんだよ、ばーか。 

そういうサスケの顔は笑っていた。

「・・・カカシの匂いがする。」

もう一度、俺の胸に頬を当てて、そう呟いた。あの時のように。

「ずっとくっついてたのに、今やっとカカシの匂いに気づいた。」
「・・・それだけ緊張してた・・・?」
「そうかもな・・・。」
「・・・抱きしめても・・・?」

初めて、サスケに了解を得ようとした気がする。

そうか、この一言が俺たちに必要な言葉だったのか。

「サスケ、俺はお前の事がめちゃくちゃ好きだよ。本当、大好きです。」
「・・・言うのが本当におせーえんだよ、ウスラトンカチ。」
「うん、ごめん。」
どれだけ待ったと思ってる。 俺の胸に向かってそう呟くサスケに胸がジュンと熱くなる。

俺がサスケを抱きしめる前に、サスケが俺を抱きしめた。

「許してくれる?」
「許してやらない事もねー。」
「好きですって10回言ったら許してくれる?」
「うすらばか・・・。」
「好きです好きです好きです、サスケくん大好きです、好きです・・・」

サスケの笑い声が、心に届いた。


いまさら想いが通じ合うなんて、俺たち本当に馬鹿だ。



サスケの事、サスケ自身が言ってくれるまで何も理解できてなかった。
わかったつもりでいて、何も判ってなかったんだなぁと思う。
お前の気持ち、何も見えてなかったんだな、本当にごめん。


そういう気持ち、忘れないようにちゃんとお前に伝えていくから。


これから先、今まで足りなかった言葉、たくさん繋いでいこうな。






fin.



サスケは、目が見えていないので、「盲目」、カカシは、サスケの心が見えていなかったので「盲目」ってことでした。
最後のカカサスの会話は馬鹿ですすみません。
内容がまったくなくて申し訳ないです・・・(笑)近いうちにまたポチポチ変えるかも・・・。

この話は、NARUTOが核心に触れる前に書いておきたかった話です(すでに核心に触れかけてますが)
サスケがどうなるのか判らない現段階でこのネタ使っておかないと、と思いまして!
そして、この小説は相互記念として「つちのこにゃんこ」美井山ミカサさまに捧げます。
・・・相互リンクさせて頂いたのが、10月・・・。
うぅ、すみません・・・。こんなにこんなにお待たせもしてるし、本当にすみません・・・(涙)

ちなみに、本当は下のおまけが書きたいがためにこの話を書いたんです。
本当は本編にいれたかったのに、いれる場所がなかったのでおまけにしました。
そうです、これは元々ギャグだったのに、気がつけばただの甘ったるいバカップル小説へとなっておりました。
にしても、カカシが史上最悪の馬鹿男で笑えます。
しょせんギャグ小説として見てください〜(笑)

そして、この小説を元に、美井山ミカサさまが、イラストを書いてくださいました。
ありえないくらい素敵です。
(こちらですよー)


2008/04/06 小鳥 由加子






おまけ。


「そうかーサスケは、愛の囁きが必要なタイプだったのかー。」

ブフッと、サスケが飲んでいたコーヒーを噴出した音が聞こえた。
次いで「あっちぃっ・・・!なっ、何いってやがっ・・・!!」と焦った声が聞こえた。
サスケを見ると、口の周りを抑えている。黒いズボンにも染みができていた。

「大丈夫かー?どれどれ拭いてあげよう。」

濡れた唇にティッシュを当てる。サスケがビクリとしていた。

「じ、自分でできるっ。」

裏返った声で、そう言いながら、ティッシュをサスケは奪った。
乱暴に唇を拭いたせいで、口の周りが赤くなっている。

「んー、可愛い唇。キスしちゃおう。」

一度たかが外れると、あとは凄いもので。
あの日以来、俺はバシバシと甘ったるいセリフを口に出した。
サスケは俺が甘いセリフを言うたびにピシリと青い顔をして固まっている。

「あ、アンタ、最近キモい!」

「こういうの、好きなくせに。」

クスリと笑って、頬をつついた。パチパチと軽く瞬きしたサスケが、気がついたように
「好きじゃねーよっ!」と怒鳴った。
そんな真っ赤になって怒るサスケを見て、俺は声を出して笑う。
言わなきゃ言わないで怒るくせに。
ま、怒るサスケを見るのが好きで甘ったるいセリフを言ってるってのもあるんだけど。

「していい、サスケ?」

耳元でそう囁けば、ますます赤く染まる。
顔をそっと上げて、何かを言いたげに口を開けば、それはOKのサイン。

「押し倒すよ?」

ヒクリとサスケの口元が揺れた。
小さくサスケの顔が縦に揺れたのを見て、俺はサスケを押し倒す。

「服脱がすよ?」

「・・・ん・・・。」

「下も脱がすよ。」

「・・・。」

「パンツも脱がすよ?」

「このばかっ・・・。」

「サスケの乳首、触るよ。」

「ぅっ・・・。」

「気持ちよくなってきた?少し硬くなってるよ?」

「あっ・・・。」

「舐めて良い?」

「はっ、あっ・・・。」

「サスケの×××、すごいことになってるよ?」

「こっ、このバカ!!いちいちそういうのいらねーんだよっ!!!!」

「何も言わないでするなって言ったの、お前じゃないの。」

「そうだけどっ・・・、そうだけど・・・、バカッ恥ずかしいんだよ!!!!」

「触ってないのに、すごいね?」

「うるさい!!今度は言いすぎなんだよアンタ!!!!!」


好きなくせに。



・・・今度はサスケの心は見えてます。本当に好きなんです(大笑)